農と食のこと

3代続く牧場を守り伝える

萩生田稔さん・和也さん親子
小野路町

父から子へ思いは続く萩生田和也さん(30)・萩生田稔さん(57)小野路町父から子へ思いは続く
萩生田和也さん(30)・萩生田稔さん(57)小野路町

 町田市で唯一の肉牛農家である萩生田稔さん(57)は長男の和也さん(30)と一緒に約40頭の黒毛和牛を飼育しています。「牛は、人間と同じように命のある生き物。命を預かっている以上、もちろん畜産業として感謝の気持ちを持ちながら育てている」と稔さんは想いを話してくれました。

乳牛から肉牛に転換

 豊かな自然がのこる小野路町で、長年にわたり続く萩生田牧場。稔さんはその三代目です。

 平成2年頃までは乳牛を育てていましたが、代々引き継がれてきた牛舎を存続するにあたって、肉牛業へ変更しました。乳牛は搾乳する時間が決まっており、時間を気にしながら日頃の作業をしなければならなかったそうです。肉牛へ変更してからは時間に余裕が出来、地域への農業体験を開催するきっかけへつながりました。

 萩生田牧場では、生後10ヶ月程の青ヶ島産の子牛や、埼玉や群馬などの市場で競り落とした子牛を、生後30ヶ月まで育て、芝浦の市場で全農東京を通じて出荷・競りで市場に出しています。

 萩生田さんは牧場経営のほか、畑作も行っており、年間通して、10種類ほどの野菜を作っています。山の中に囲まれた畑で、稔さんは「土(堆肥)には自信がある」と話します。

体験農業の受け入れも

 15年ほど前から毎年、多摩市武蔵野幼稚園の園児を体験農業のため受け入れています。6月にはジャガイモ、10月にはサツマイモ掘りを体験してもらいます。取材に伺った当日も稔さん、和也さんの指導のもと、年長、年少の園児が、ジャガイモ掘りを体験していました。園児たちが持参したビニール袋はすぐにいっぱいとなり、皆引きずりながらリュックにいれて持ち帰っていました。当日は、ジャガイモ掘りだけでなく、牧場で牛の見学や、梅の実拾い、昆虫採集などその場所でしか味わえない自然を園児たちは思い思いに楽しんでいました。幼稚園ではジャガイモを給食に、梅の実はジュースに使い園児たちに食べさせているそうです。

 「この体験を機に、思い出作りはもちろん、子供から大人まで農業に興味や関心を持ってもらいたい」と稔さんは話します。

そして四代目へ

園児らにイモ掘り体験園児らにイモ掘り体験

 稔さんはJA町田市の畜産部会の部会長として四期目を迎え、町田市の畜産業をとりまとめています。東京では、黒毛和牛を扱う肉牛農家は5軒ほどとなり、町田市内では、萩生田牧場の1軒だけです。町田市内でも肉牛だけでなく、畜産業を生業とする人は少なく、今後増えることも難しいため、稔さんは「横のつながりもなく仲間も少ない。近隣の県などの親交が大切になってくる」と畜産業の苦労を話してくれました。

 息子の和也さんは、就農して4年目。以前は別の仕事についていましたが、小さい頃から父親の背中を見ていた影響もあり、家業である牧場経営に対する思いも強く、自らこの世界に踏み込んだそうです。「毎日が勉強」と話す和也さんに対して「長男として家業を守ってもらいたいと願っていましたが、和也自身の家業を継ぐ意欲も強く、今後経営は厳しくなっていくと思うが頑張ってもらいたい」と稔さんは期待をよせます。

きずな.2013年 夏号_No.30掲載