人の輪の中で栽培する高糖度トマト
井上 盛士さん
野津田町
鶴川地区の農産物直売所「アグリハウス鶴川」の代表を務める井上盛士さんは、厳冬期にハウスを使って高糖度トマトを生産しています。「半促成加温栽培」という方法で3月中旬に収穫するトマトは、やや小ぶりながら糖度は平均10〜12とフルーツトマト並みに甘く、地元の方々から「泉園のトマト」というブランドで親しまれています。井上さんは「毎年、楽しみに待ってくれているお客さんがいるから頑張れるんだ」と、自分自身がお客さんに育てられていることを強調します。
栽培技術を追究
農業を始めたのは20年前。約80アールで野菜や果樹を栽培していた父親が他界し、後を継ぎました。農業の知識や経験がなかったため、毎日、近所で技術に優れた農家に通って指導を仰ぎました。「一度決めたら究めるまでとことんやりたい」性格という井上さん。少しずつ野菜作りの腕を磨きました。
15年ほど前に、トマト栽培に本格的に取り組むため、約66平方メートル(約20坪)のハウスを建設。「びっくりするくらい、おいしいトマト」を安定して作る技術を修得することを目標に栽培を始め、その後、規模を徐々に広げ現在に至ります。
井上さんは10月後半に播種、11月から12月にかけて移植、定植し、3月中旬には出荷する「半促成加温栽培」を行っています。このスケジュールで栽培する農家は、町田市では井上さんと数軒だけ。厳冬期の栽培となるため、温度維持に非常にコストがかかりますが、お客さんのためにと苦労を惜しみません。
農業は助け合いながら
栽培する野菜は30種類以上。出荷量も多く、繁忙期には人手が足りなくなることも。作業は基本的に妻・タカ子さんと2人ですが、人手が足りない時は、友人に手伝ってもらっています。「農業は一人ではできない。助け合いながら進めることが大事」と、井上さんも他の生産者の相談に乗り、アドバイスをしています。
出荷先は、アグリハウスの他、地元小学校、市役所の朝市、コンビニなど多岐にわたります。中でも、小学校への出荷に強い思いがあります。決められた量の野菜を時間までに出荷できないと、児童の給食に影響してしまいます。「非常に責任のある仕事。丹精込めた野菜を子どもたちが食べてくれるのはうれしいし、やりがいがある」と話します。
井上さんのひたむきな姿勢は、鶴川地区の生産者にも一目置かれています。アグリハウスのお客さんの間でも有名で、井上さんの野菜目当てに訪れる人も少なくありません。
アグリハウスのために
アグリハウス鶴川の部会長として、お客さん目線で開店時間を変更したり、荷が多い時の出荷量調整をしたり、積極的に改革を進めています。また、生産者間の調整役を務めるなど仕事は多岐にわたりますが、これらも、少しでもアグリハウスを良くし、お客さんを満足させたい一心で行っています。
「いい商品を並べれば、人が人を呼びお客さんは増える。一日当たりあと100人増やしたい」と意気込みを語ります。
きずな.2016 冬_No.40掲載