コツコツまじめに70年
農と人を結び、
都市農業の未来を守る
加藤 雅彦さん
金森
町田市金森に住む加藤雅彦さん(81)が就農したのは、今から約70年前。それ以来、雨の日も風の日もひたむきに畑と向き合ってきました。今でも、夏場の最盛期には朝8時ごろから日暮れまで作業をこなします。「猛暑の中での作業はとても過酷。だけど、自然と付き合う農家にとっては当たり前のことだよ」。誰よりも真剣に農業に取り組んできた加藤さんが現在力を注ぐのは、都市農業の未来を守る活動です。
(取材担当 南支店:峯岸敦、郡司隆幸)
自然と向き合い続けた70年
加藤さんは、町田市金森で小さな頃から農業に携わってきました。10歳のころから父親の手伝いを始め、幼いながらも「自分は将来農家になる」ということを心の中に決めていたと語ります。家族の手伝いをする傍ら、高校は神奈川県にあった「相原農蚕高校(現在の神奈川県立相原高等学校)」に進学しました。「農家の仕事をしながらの通学で大変だったけど、高校には就農を考えている人が集まっていたから、いい刺激になった。卒業後は会う機会が少なくなってしまったけど、一緒に勉強した仲間たちも農業を頑張っていると思うと、自分も頑張らないといけないと思えたね」と振り返ります。
現在は市内3カ所の畑で、夏にはナス、トマト、キュウリ、秋にはサツマイモやトウモロコシなど、季節ごとに多くの野菜を栽培しています。収穫した新鮮な野菜はアグリハウスみなみに出荷しており、来店客にも好評です。
長年にわたり農業を続けてきた加藤さん。猛暑による干ばつが起きた時には、今まで使用していた畑の性質を見直し、栽培に水分が大量に必要となるサトイモは畑を移動して作り直すなど、工夫を重ねて“育てやすい環境づくり”を目指しました。
悩んだり失敗したりすることもありますが、そういった経験はすべて現在の農業に生きていると言います。平成26年度には企業的農業経営顕彰を受賞し、さらに農業委員や野菜部会の会長も歴任するなど、これまで培ってきた知識や経験を生かして、地域農業のために活躍してきました。
新たな視点で都市の農を守る
以前は牛を飼っていて、草を食べさせてふんをたい肥にし、それを野菜作りに利用していました。また、田んぼで米作りもしていましたが、現在はたい肥作りも稲作も出来ていないと言います。その理由は、環境の変化にあります。加藤さんが農業を始めて約70年。その間に、取り巻く環境は大きく変化してきました。加藤さんの畑は町田駅にもほど近く、アクセスの良さから周囲に住宅が増え、においや下水処理などを考えた結果、畜産や稲作を断念するしかなかったと言います。
都市化が進み住宅が増える中で、この土地に“農”を残していくにはどうすればいいのか――。悩んだ加藤さんが見つけた答えは「周囲の人たちを巻き込む農業」を展開することでした。都市に農を残していくためには、周囲の人に農の役割や機能を知ってもらい、理解してもらうことが欠かせないと考えた加藤さん。地域の幼稚園や保育園の農業体験に畑を提供し、自然と触れ合う楽しさや、食べ物のありがたみを伝える活動を始めました。現在では、年間7、8カ所の幼稚園と保育園に農業体験の場所を提供していて、実際に畑に入った園児たちは土や水、作物やそこに生息している虫に触れ、目を輝かせています。「周囲の人たちを巻き込む農業」を続ける加藤さん。野菜を収穫する際には、強力な助っ人が駆け付けます。近所に住む加藤さんの3人の弟や妹たち、さらに孫の聖也さん(27)です。最近は聖也さんと一緒に畑で作業することも増えたと言います。
加藤さんは、家族や地域の人など、周囲のみんなと農を結び付ける活動を続け、都市農業の未来を守っています。
きずな.2019年 春号_No.52掲載