農と食のこと

考え抜き、収穫という結果がでたとき
一番の喜びを感じる――

宮本 俊宏さん(51)
小野路

 小野路の緑豊かな里山でブルーベリー農園を営む宮本俊宏さん。両親から受け継いだ農地を活用してゼロからブルーベリー農園を拓きました。独学で農業をはじめ、悪戦苦闘の日々。しかし、数々の経験を経て、今では「おいしい!」と評判のブルーベリーを生産し、収穫体験プログラムなどを通して地域農業を盛り上げています。今回は、農業という仕事に大きな魅力を感じていると話す俊宏さんを紹介します。
(取材担当 鶴川支店:原 昂翼)

事業継承にあわせ
傾斜畑をブルーベリー農園に

ミカンなどの果樹を手入れする俊宏さん

 「若い時は農業よりも釣りに熱中していた」と笑顔で話す宮本俊宏さん。海や湖が好きで、もともとは趣味の釣りに没頭していましたが、33歳の頃に実家を継いで就農しました。父・紀一さんと母・ツナ子さんは、自然豊かな小野路で農業を営んでいましたが、高齢を理由に産直の運営を徐々に縮小したことがきっかけだったそうです。俊宏さんは就農を決意したものの、引き継いだ畑で野菜を育てることはあえて選びませんでした。圃(ほ)場が山の上にある日当たりの良い傾斜地だったからです。この土地の特性を活かすため、ブルーベリーを育てることにしました。

失敗した経験を
力に変えるアクション

 「はじめの3~5年はノウハウもなく、自己流だったので作柄は酷かった」と話します。勉強材料は市販の本のみ。はじめの頃は剪定等の栽培技術が伴わず、実ったものは納得のいく味と大きさにはならなかったそうです。「本を読んで知識はついた。でも実際にやってみると全然違った。できたブルーベリーを周りと比べて恥ずかしかった」と振り返ります。また、15年ほど前には台風接近の影響で強風が圃場に吹きこみ、収穫期を迎えていた木が折れてしまったこともあったそうです。「あの光景は今でも夢に見る。自然の怖さを知った」と話しました。

 それからは独学ではなく、町田市や相模原市のブルーベリー農家の集いに参加。講習会や視察にも積極的に足を運びました。他の農家との違いを目の当たりにしたものの、俊宏さんは「これからまだ改善できる!」と心折れることなく奮起します。たくさんの学びを得て、試行錯誤を繰り返すうちにようやくブルーベリーの実の付き方や味にも変化が見られるようになったそうです。

 「初めから上手くできていたら農業が面白くなかったろうし、やりがいも感じていなかった」と話す俊宏さん。収穫量と品質が向上した今も現状に満足せず「日々、勉強だ」と意気込みます。

収穫し味わう喜びを
多くの人に知ってほしい

ブルーベリーを冷凍保存する様子

 俊宏さんの農園では夏場にブルーベリーの収穫体験を行っています。経験できる場があれば、農業に興味を持つ次世代が増えると考え、収穫体験を始めました。一人で農園の管理をしていることから、複数のグループを同時に対応することは難しいのですが、8月中旬頃には木からブルーベリーの実が無くなってしまうほどの盛況ぶりです。

 この収穫体験には、俊宏さんが初めて苗から育てたブルーベリーを収穫したときの感動を少しでも来園者に味わってほしい、という思いが込められています。

 また、ブルーベリーの栽培に慣れ始めてからは、閑散期にミカンの栽培も始めました。「今は動画やオンラインで勉強ができるから昔に比べて恵まれている。ただ、人によってやり方があるから自分流に当てはめてやることを大切にしている」と話します。

 これからも農業の楽しさを伝えるとともに、自身の挑戦としてブルーベリーやミカンの品種を増やしていきたい、と俊宏さんは目を輝かせます。「時には農園の土木作業までやることもあるが、大変な分やりがいがある。農業は自分で考えて結果が出た時に一番の喜びを感じる」と楽しそうに話しました。